都市再開発特集
「通過点」から「滞在地」へ
高級ホテル続々
かつて「観光資源に乏しい街」と評され、「通過点」にとどまっていた名古屋が今、新たな表情を見せつつある。米『TIME』誌が2023年に発表した「世界の最も素晴らしい場所50選」に、エジプトやバルセロナ、京都などと並び、名古屋の名が挙がったことは、その象徴的な出来事だった。交通の結節点としての利便性に加えて、食・文化・歴史といった地域資源が再評価され、国内外の視線が名古屋に向けられている。
こうした流れを追い風に、名古屋では高級ホテルの進出が相次いでいる。2023年に「TIAD(ティアド)」が栄に開業。全室50平方㍍以上というラグジュアリーな空間設計に加え、バトラーサービスやバレーパーキングといった「コト体験」にも力を入れるなど、都市型リゾートとしての存在感を高めている。2025年10月には、興和グループが手掛ける「エスパシオナゴヤキャッスル」が名古屋城そばに開業予定。名古屋城天守閣と豊かな緑を借景にした「天守の間」は、最大収容人数1700名を誇る国内最大級のラグジュアリーホールとなる。2026年には世界的ホテルブランド「コンラッド名古屋」の開業も控えており、名古屋の国際都市化に拍車をかける見通しだ。
この動きを支えているのが、愛知県と名古屋市による官民一体の誘致策である。両者は2020年度に「国際観光都市の実現」を掲げ、高級ホテルの新設に対して最大20億円を補助する制度を設けた。申請受付は一旦終了したものの、2025年5月から再開され、今後の誘致活動を継続していく方針だ。
名古屋はこれまで、展示会やビジネス利用に支えられた短期滞在型の宿泊が主流だったが、近年は文化・観光を軸とした長期滞在型への転換が模索されている。近郊には犬山城やジブリパークなどの観光資源が点在しており、広域的な周遊ニーズを掘り起こすポテンシャルを持つ。
高級ホテルの増加は、単に宿泊の選択肢を広げるだけでなく、「滞在そのものを目的とする旅」の実現を後押しする役割を担っている。今後は、ホテルを拠点とした街歩きや文化体験、地元イベントとの連携が進むとみられ、地域全体の滞在価値の底上げが期待される。名古屋は今、「通過する街」から「選ばれる街」へと、その地位を確実に変えつつある。