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脱炭素とエネルギー自給はセットで
NewsPicks(ニューズピックス)ニューヨーク支局長 森川 潤さん

 もりかわ・じゅん 1981年米国ニューヨーク州生まれ。トロント大学留学、京都大学文学部卒。産経新聞を経て、週刊ダイヤモンドでエネルギー業界を担当。2016年ソーシャル型オンライン経済メディアのNewsPicksに参画、19年から現職。著書に、『アップル帝国の正体』(共著、文芸春秋)、『グリーン・ジャイアント 脱炭素ビジネスが世界経済を動かす』(文春新書)など。(写真:佐々木龍)

米国の製造業回帰は本気だ

 ――森川さんが拠点としておられる米国では、2022年夏に気候変動対策とエネルギー安全保障の強化を狙いとした「インフレ抑制法」が成立して以降、蓄電池や核融合など脱炭素ビジネスへの投資が一段と熱気を帯びているといわれています。米国の脱炭素ビジネスの勢いについて教えてください。

 「米国では気候変動対策を進めるために、製造業を全面的に再興しようとしています。とくに電気自動車(EV)と蓄電池を国産化するために凄まじい勢いで工場を建設しています。GM、フォードのほか、韓国・現代自動車はジョージア州に EVと蓄電池工場を、ホンダと韓国・LGエナジーソリューションは共同でオハイオ州にリチウムイオン電池工場を建設中です。半導体を含めれば、脱炭素、エネルギー安保関連の工場建設は相当な数にのぼります。まさに工場建設ラッシュといえ、23年8月の製造施設建設支出は前年比66%増加し、1950年代以降で最高水準に達するなど、約70年ぶりの製造業回帰と雇用創出への本気度はものすごい勢いです。米政府は半導体やEV、蓄電池、部品の製造工場建設に拍車をかけるため、数千億ドル(数十兆円)規模の助成金や税額控除などのインセンティブを提供する方針で、EVなどゼロエミッション車の分野で中国に追いつき、半導体産業でも主導権を取り戻すことに躍起になっています」

 ――米国では核融合スタートアップがマイクロソフト(MS)と28年の電力供給契約を結んだことが話題になりました。

 「MSが電力購入契約を結んだヘリオン・エナジーには、MSの出資によって成長し世界で脚光を浴びている生成AI(人工頭脳)の『チャットGPT』をつくったオープンAIの共同創業者の一人であるサム・アルトマン氏が500億円超を出資しています。オープンAIへの出資によってMSはAIでライバルのグーグルをリードしたものの、AIは膨大な電力を消費するため、AIが成長するほど安くて豊富な電力が必要になることはMSが一番よくわかっています。サム・アルトマン氏との関係から今回の契約に至ったと思いますが、28年までの電力供給実現は不透明としても、ヘリオンが注目株で投資が集まっているのは事実です」

 ――今秋、ドイツに滞在していたそうですが、欧州のエネルギー・脱炭素事情はどうでしたか。

 「23年4月に原子力発電所をすべて停止したドイツだけは特殊ですが、エネルギー危機が続く中、原子力への期待値が高まっています。CO2を排出しない、エネルギー自給に資するとの理由から、原発に期待する声は左派や若者を含めて、フランスを筆頭に英国、フィンランドなど他の欧州諸国でも強まっているのは事実で、今年のCOP28の議題にもなる見込みです。ただ、直近で米国の新型原子炉の建設計画が中止になるなど、新設が進むかは不透明です。ドイツは、節約や効率化の意識も高く、短期的には経済的打撃を受けたとしても、中長期的には正しい選択になると信じて難しい道を歩んでいる印象です」

「ビッグショベル」の時代に

 ――EU(欧州連合)は23年3月、エンジン車販売を35年以降は禁止する方針を転換し、CO2排出が実質ゼロの合成燃料を使うエンジン車の販売容認を決めました。

 「この合成燃料の一番の提唱者はポルシェです。合成燃料に必要なCO2を大気から取り出すテクノロジーは、ものすごくコストが高く、ポルシェのような嗜好品的高級スポーツカーでないとペイしにくいのです。このため、フォルクスワーゲン(VW)の関係者は、EV化の大勢に影響はないとの考えです。ただ、米国では今、ハイブリッド車(HV)が再ブームになっています。まだHVにさえ切り替えていなかった層も多く、EVはまだ高価なこともあって、EV販売の伸びは鈍化しています。新車販売台数の8割をEVが占めるEV超先進国のノルウェーにしても、EV比率が高まる一方で販売台数は落ち込んでいます。EU全体でも同じ傾向です。それでも価格競争は激化しており、ドイツでは『(ドイツ車は)テスラと中国車に完全に出遅れてしまった』という批判が起きています。一方、業績を見ると、ドイツから見て遅れていたはずのトヨタが記録的な利益を叩き出しており、現状の欧州勢は苦しい立ち位置にいます。EV転換自体に変化は見られませんが、移行期間は数年は伸びると見ている人はいます」

 ――米国はインフレ抑制法、EUはグリーンディール産業計画。中国を含め世界の脱炭素ビジネスは巨額の補助金を投じる産業支援競争になっています。

 「『石油の世紀』の著者でエネルギー問題の世界的な権威であるダニエル・ヤーギン氏は、脱炭素が進展していけば重要鉱物の時代になると言っています。太陽光発電などの再エネやEVを増やしていくには鉱物が必要で、『ビッグオイル』から『ビッグショベル』の時代になると指摘します。例えば、EVの蓄電池に必要なリチウムは豪州、チリなどが主要産地ですが、利益になりにくい精錬プロセスは6割を中国が押さえており、他の重要鉱物でも中国が精錬を完全に押さえています。このため米国は、製造業復権の流れの中で精錬を含めたリチウム国産化に動き出し、ドイツや豪州でも同様の動きが見られます。太陽光、風力、EVのすべてに必須な銅でも同じことが起きています。現状の脱炭素政策は、気候変動対策とともに経済安全保障の側面が大きく、大国間の競争が始まっているということでしょう」

 ――日本も脱炭素社会の実現に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)実行計画を決めました。日本に勝ち筋は残されているのでしょうか。

 「欧州を取材して強く感じるのは、脱炭素とエネルギーでの独立、つまり自給にセットで取り組まなくてはいけないということです。とくにウクライナ戦争以降は、再エネを増やせばロシアの化石燃料に頼らないで済むため、再エネとエネルギー自給には高い親和性が生まれました。日本では今ある原子力を活用したとしても、中東やロシアで何か起きるとその都度エネルギー安保が脅かされるという状態から脱するためには、自前のエネルギーである再エネの中で新しいイノベーションに挑むべきだと思います。太陽光が中国勢に席巻されているのは事実にせよ、曲がる太陽光パネルなど日本の基礎技術を利用して中国が安価に実用化しているものも多くあります。リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池も同じで、もとは日本が先行した技術です。強い製造業の力を生かして脱炭素のイノベーションを日本から起こし、世界をリードできる技術に資金を大胆に投入するGX戦略であれば、経済面でも、もっと明るい脱炭素社会の未来が描けるようになるはずです」

 ――最後に中東のイスラエル紛争で石油危機の再来を懸念する声もありますが、欧米の見方はどうなのでしょうか。

 「米国では今のところ、エネルギー危機につながるとの見方は出ていません。エネルギー専門家は、50年前の石油危機の時とは状況が違い、アラブ湾岸諸国は世界経済と非常に密接な関係にあり、原油の禁輸は自国の利益にならないと見ています。ただ、原油供給が途絶えるリスクは完全には否定できないため、米国は産油国でありながらも石油メジャーが再エネシフトの一方で権益確保に動くなど、化石燃料にも手を打っています。日本は米国と同じことはできないとしても、再エネや原子力も含めて中東依存を低減するリスク回避策をとる必要はあると思います」

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2024年10月11日(金)
しんきんビジネスマッチング「ビジネスフェア2024」

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